リーディング・ナイフ

「助けて。私は未来を見たい」

亮太との結婚を控えた由香は、荷物の整理中に古いノートパソコンを見つける。学生時代に使っていたそのパソコンから、自分宛にテストメールを送ると、九年前の自分からEメールが来た。『九月十一日のアメリカ同時多発テロ事件以降、もう十回も二〇〇一年を繰り返している』とそのメールには記されていた。

「林田、今日は何年の何月何日だ?」

由香はそのメールを信じなかった。しかし、二〇一一年三月十一日、東日本大震災の翌日、彼女の時間は一年前に戻ってしまった。時間のループに入ってしまった人たちには共通点があった。全員が『KNIFE』というインディーズの音楽を聴いていたのだ。